①自律神経について

1.カラダの内部環境の恒常性を保つホメオスタシス

自律神経とは、ヒトが無意識のうちにカラダの器官、組織などの機能をコントロールしている神経のことを指します。自律神経を理解するためのキーワードに、「ホメオスタシス(生体の恒常性)」というワードがあります。
ホメオスタシスとは、カラダの中(内部環境ともいう:体温、電解質、ガス組成、栄養など)を一定の状態に保つ性質のことです。
代表的な例として「体温調節機能」があります。外界の温度が急激に変化しても体温が安定しているのは、ホメオスタシスのおかげです。カラダが正常な場合、外気が寒くても熱くても、体温は常に36℃前後を一定に維持しています。
免疫」もホメオスタシスのひとつです。免疫とは、外部からカラダの中に侵入した細菌やウイルスによる感染や、カラダの中のがん細胞の発現などに対して生体を防御する仕組みのことを指しますが、これも意識しなくてもはたらいてくれます。

図1:ホメオスタシスと外部環境

2.ホメオスタシスに働く3つの機能 

ホメオスタシスのための重要な仕組みとして、ホルモンの分泌をつかさどる内分泌(ないぶんぴつ)(けい)」、ウイルスなど外部の異物からカラダを守る「免疫(めんえき)(けい)」、臓器や血管などカラダ全体を調整する「自律(じりつ)神経(しんけい)(けい)」の3つがあります。

これらの3つの機能は、脳からの指令(インパルス)によって機能し、お互いに影響をしあってそれぞれの機能を発揮します。それらは無意識のうちにコントロールされています。しかし、いずれの機能も外部からの有害な刺激(ストレス)が極端に加わると、そのバランスが崩れてうまくはたらかなくなります。例えばストレスがかかりすぎると、これらの機能のバランスが失われ、精神面だけでなく、カラダの面までも不調となることはよく知られています。

図2:ホメオスタシスのための3つの機能

3. 自動的にカラダの器官をコントロールする自律神経系

ホメオスタシスの3つの機能のうち、「自律神経系」は自分で意識してコントロールしなくとも、自動的にカラダの臓器や血管の機能を統御する重要な役割を担っています。自律神経を含めた神経系は、全身に張りめぐらされた情報ネットワークであり、人間の脳や身体のはたらきをつかさどる役割を担っています。カラダが活動するときに使われる神経は、主に、運動神経、②感覚神経、③自律神経の3つです。
運動神経は、脳からカラダを動かす命令を手足やそのほかの部位に伝え、カラダを動かすための神経です。
感覚神経は、体内や体外に生じた痛みや痒みなどの刺激や情報を、中枢神経系(脳)へ知らせるための神経です。
自律神経は、中枢(脳)と内臓や血管、汗腺など、末梢にある組織とを連絡し、内臓や血管の平滑筋(へいかつきん)、腺、心筋などを支配して不随(ふずい)運動(うんどう)(意のままにならない運動)を行います。

自律神経は、交感神経(こうかんしんけい)副交感神経(ふくこうかんしんけい)の2つの神経系があり、この2つは相反する作用を示します。
交感神経は、緊張やストレスを感じたときに活性化する、自動車のアクセルのような役割を担っています。副交感神経は、リラックスした状態になるとき活性化する、自動車のブレーキのような役割を担っています。
この2つの神経系が両立しながら、緊張を高めたりリラックスを促したりして、身体や精神のバランスを調整しています。交感神経が副交感神経に対して過剰にはたらきすぎている状態 を「交感神経優位」の状態、副交感神経が交感神経に対して過剰にはたらいている状態を「副交感神経優位」の状態といいます。

図3:自律神経とは

4. 心臓のはたらきをコントロールする自律神経

心臓は生命に直結する大変重要な臓器です。カラダ全体に血液を送り出し、肺で得た酸素や、腸管で吸収された栄養素を全身に供給するため、無意識のうちに休まずに動き続けます。心臓は自律神経によって常に統御されていますが、緊張やストレスを感じると交感神経が活性化して心拍数が上昇し、心筋の収縮力などが上がります。一方、リラックスを感じると副交感神経が活性化し心拍数が減少し、心筋の収縮力などが下がって心臓の活動を抑制します。つまり、活動して心拍数が上昇している日中と比べて、夜間に寝ている時の心拍数は減少します。

図4:自律神経と心臓

5. 小腸や大腸などのはたらきをコントロールする自律神経

腸などが波を打って動くことを腸の蠕動(ぜんどう)運動(うんどう)と呼び、食べた物を口側から肛門側へと送るはたらきをします。蠕動運動は、小腸や大腸の平滑筋(へいかつきん)で生じますが、この周囲には自律神経が張りめぐらされており、自律神経によってコントロールされています。
交感神経系と副交感神経系のバランスがよいと蠕動運動は良好となります。ところが、これらのバランスが悪く、交感神経が過剰に興奮すると蠕動運動が鈍って食塊は腸の途中で溜まって便秘となります。また、副交感神経が過剰に活性化すると、逆に腸の痙攣(けいれん)が起こって便秘が生じてしまいます。自律神経のバランスを整えることは便秘を予防し、便秘の解消にも有効であることが分かります。

図5:自律神経と腸

6. 血管の機能をコントロールする自律神経 

血液は血球と呼ばれる細胞成分と、血しょう (血漿)と呼ばれる体液成分によって構成されており、血管を通って全身をめぐり、さまざまな物質を輸送します。血管も心臓と同様、自律神経によって無意識のうちにコントロールされています。
交感神経は毛細血管を除く血管に広く分布しており、これによって血管の緊張は常に保たれ、一定の血圧が維持されています。運動や食事、痛みや精神的興奮などにより、交感神経優位となると、血管が収縮し、血圧は上昇します。副交感神経優位の状態では、心臓の機能を抑制し、血圧は低下し、血管が拡張するともいわれています。どちらか一方が過剰になると、血管と心臓の収縮と拡張はうまくコントロールされず血流が悪くなります。とくに交感神経の優位が長く持続すると、血管は収縮して閉まり、血流が悪化するばかりでなく、狭くなった血管内を血球や血しょうタンパク成分が勢いよく流れて血管の内壁が傷ついてしまい、さまざまな循環器の病気のリスクが高まります。また、細動脈の平滑筋が収縮して血管抵抗が増加し、血圧が上昇してしまいます。

図6:自律神経と血管

まとめ

●体内を一定の状態に保つことをホメオスタシスという
●自律神経は体内の器官や血管を無意識のうちにコントロールしている非常に重要な神経である
●自律神経には交感神経と副交感神経があり、その2つの神経がうまくバランスを取ることで、カラダの調子を整えている

心臓、腸、血管と自律神経との関係を簡単に説明しましたが、ほかの器官も同じように自律神経のバランスで機能しています。交感神経と副交感神経のバランスが悪く、自律神経がうまくはたらかなくなると、カラダにいろいろな不調をきたします。

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