③心理的ストレスや疲労と自律神経の関係

1.現代人の自律神経は

現代社会はストレス社会であり、さまざまな局面で緊張し、心理的ストレスに晒さらされる場面が非常に多くなることが容易に想像され、多くの人が交感神経優位になりがちと考えられます。自律神経のバランスがとれた状態では、交感神経と副交感神経の割合はどのようになるのでしょうか?バランスの取れた状態とは、交感神経と副交感神経の割合が1:1交感神経の割合が多くても1.5:1です。これを基準としてみていくと、約80%の人が交感神経優位であることが示されました。この結果は、もちろんストレス社会の考えによる憶測ではなく、医学・生理学的なデータに基づく科学的な評価によるものです。この結果から、現代人はどのように副交感神経を高め、自律神経のバランスを保っていくのか、ということが切実な問題であると理解できます。

図1:現代人の自律神経バランス

2.心理的ストレスの影響

心理的ストレスは、交感神経を過剰に活性化させることが、さまざまな基礎的研究や臨床的検討から明らかになっています。心理的ストレスが日常化し、交感神経優位な状態となりそれが持続すると、カラダの末梢(まっしょう)部位(ぶい)や内臓のコントロールが不調となります。交感神経優位の状態がさらにエスカレートし慢性化すると自律(じりつ)神経(しんけい)失調症(しっちょうしょう)や、パニック障害などの不安(ふあん)障害(しょうがい)の発症につながります。その結果、カラダ全体に不調をきたすことになります。

図2: 心理的ストレスからくる自律神経の不調

3.自律神経失調症、更年期障害

自律神経失調症とは、交感神経と副交感神経のバランスが大きく乱れて生じる病態のことです。自律神経失調症は、原因が不明な(ず)(じゅう)動悸(どうき)吐気(はきけ)、しびれなどのさまざまな不定(ふてい)愁訴(しゅうそ)(なんとなく体調がすぐれないなどの自覚症状を訴えますが、検査をしても原因となる疾患が不明の状態)で悩まされ、病院を受診しても器質的(きしつてき)な変化や、明確な病変がみられない状態を呈します。
とくに女性では、閉経期に女性ホルモン(エストロゲン)の分泌(ぶんぴつ)が急激に減少することで自律神経のバランスが崩れ、自律神経失調症と同様の、さまざまな愁訴に悩まされる状態である(こう)年期(ねんき)障害(しょうがい)になります。ただし、女性特有の症状ではなく、近年は男性にもみられることがわかってきました。男性の更年期障害をLOH症候群(late onset hypogonadism)とも呼びます。
自律神経には日内変動があり、昼間に活動しているときは交感神経優位となって活動的になり、夜間睡眠中には副交感神経優位となってカラダを癒して昼間の疲れをとります。ところが、夜更かしを繰り返したり、ストレスで寝付きが悪く質の良い睡眠を取れなくなったりすると、自律神経の日内変動のサイクルが崩れてしまい、自律神経のバランスは乱れ、その結果カラダに不調をきたして自律神経失調症が生じます。

図3: 自律神経失調症と更年期障害

4.パニック障害

次に、自律神経のバランスが崩れることで生じる代表的な疾患(しっかん)(不安障害という病気に分類されます)である、パニック障害について説明します。最近はその増加から、話題となることが多くなりました。
パニック障害では、発作的に生じた原因不明の激しい不安から交感神経が過剰に活性化し、心拍数や血圧の急激な上昇によって息苦しくなり恐怖感を感じるようになります。さらに、その恐怖感からまた発作が起こるのではないかと不安になり、恐怖感も強くなってパニックが生じ、それを繰り返す病気です。このパニック障害も、交感神経が過剰に優位な状態が続くと発症の可能性が高まることが分かってきました。
また、自律神経失調症やパニック障害などの不安障害のほか、うつ病躁病(そうびょう)などの気分(きぶん)障害(しょうがい)といわれるメンタルな病気と自律神経との間に関係のあることが、近年の研究で分かってきました。

図4:パニック障害の原因

5.トータルパワー(TP)とは

次は自律神経のトータルパワー(Total Power: TP)、つまり交感神経と副交感神経のはたらきを合計した、自律神経活動の全体について解説します。トータルパワーは、カラダの疲労度を示す指標として知られており、カラダが元気な状態では自律神経活動全体、つまりトータルパワーは上昇し、カラダが疲れている状態ではトータルパワーは低下します。
トータルパワーはカラダの疲労度を示す指標であるといえます。

図5:自律神経のトータルパワー

6.オーバートレーニング防止には

トータルパワーという指標をすでに実際に利用しているのが、ゴルフや野球などのスポーツ選手です。スポーツ選手にとって最も注意しなくてはならないのがケガです。ケガの原因はさまざまですが、とくにオーバートレーニングによるケガだけは、注意すれば防止できるだけに極力避けたいところです。今までもスポーツ選手は、オーバートレーニング防止のために、問診や血液検査など、さまざまな検査が行われてきました。しかし疲労度を聴きとる問診はスポーツ選手自らの感覚(主観)によため、実際の疲労度と誤差が大きい場合があります。また、血液検査による疲労度の推定は客観性をもちますが、結果までに時間がかかり、オーバートレーニング防止には適さない面がありました。
一方で、トータルパワーは自律神経全体の活動なので、心拍センサーを使用し、指先の血流量の変化から簡単に測定できます。その場で結果が分かるので、ただちに対処が可能であり、オーバートレーニングの完全な防止につながります。客観的でタイムリーに結果が分かる疲労度の検査方法として、トータルパワーの測定が注目されています。

図6:トータルパワーを使ってオーバートレーニング防止

まとめ

●心理的なストレスが継続すると、交感神経優位な状態が続き、カラダに不調をきたす
●エスカレートすると、自律神経失調症、更年期障害、パニック障害などになることがある
●自律神経はバランスだけでなく、疲労度も表しているために、トータルパワーにも注目する必要がある

心理的ストレスにより交感神経が過剰に優位になり、それが持続し、慢性化することで生じる病気に、自律神経失調症やパニック障害などがあります。また、自律神経のバランスの問題だけではなく、交感神経と副交感神経の合計であるトータルパワーは、からだの疲労度の指標となります。スポーツ選手などはオーバートレーニング防止、ケガの防止のためにトータルパワー測定を活用しています。

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