④自律神経とパフォーマンスの関係

1.パフォーマンスに影響するのは

自律神経の血管へのはたらきは、スポーツ選手にとって大変重要です。ある試合では練習の成果がでてうまくいったのに、ある試合では調子を崩してうまくいかず、良い成績がでないといったことはしばしばみられます。これにはまさに自律神経のバランスによる影響が大きくものをいっているのです。スポーツ選手のパフォーマンス(行動や能力、それによる実績)は、端的にいって筋肉にいかに酸素を十分量送ることができるかにかかっています。酸素は赤血球のヘモグロビンという物質に結合し、血流によってカラダの隅々にまで供給されます。その導線である血管がきちんと機能して、拡張や収縮が的確に行われなければ、途中で滞るなどうまくいくことができません。スポーツ選手が実力に見合ったパフォーマンスを発揮するためには、血管をコントロールする自律神経のはたらきを正しく調整することが重要であり、それがパフォーマンスに直結するのです。

図1:パフォーマンスは血流によって決まる

2.ゴルフのパット時の自律神経

実際のゴルフの試合中に、心拍センサーを胸に張るタイプの機器を選手に装着してもらい、自律神経を測定しました。その結果とゴルフのパットとの関連から、ゴルフのプレーと自律神経との間には、興味深い関係があることが分かりました。自律神経のバランスが良いと、落ち着いた状況でパットに臨めるので、成功する確率は高まります。成績をみると、そのことと整合していることが分かります。とくにメンタル面が重視されるスポーツとされるゴルフにとって、前のプレーの結果で崩れた自律神経のバランスを整え、いかに新たな気持ちで次のプレーに臨むことができるかどうかは、プレーの結果や成績に大きく影響していることが分かります。

図2:ゴルフのパットの例

3.副交感神経優位なゴルフ選手の場合

ある有名なプロゴルファーのお話です。その選手は、自律神経状態の計測結果から、スポーツ選手としてごくまれな副交感神経優位なタイプであることが分かっています。大きな試合に臨んでもあまり緊張しないタイプですが、緊張しないことが必ずしも良いパフォーマンスにつながるとは限りません。緊張しないまま試合に入ると良いパフォーマンスの発揮が難しく、むしろ交感神経を高めて緊張した方が良いパフォーマンスを引き出すことができるようです。事実、その選手は「緊張したときには失敗したことがない。リラックスしたときに失敗することが多い」といっています。このように、良いパフォーマンスを発揮するには、自分自身の自律神経のバランスを把握して、自分は追い込むことで力をだすタイプなのか、リラックスした方が能力を発揮できるタイプなのかを知っておくことが大切です。それによってパフォーマンスを発揮させる対処法が異なることを理解しておくことが必要です。

図3:あるプロゴルファーの例

4.交感神経優位な野球選手の場合

交感神経が活発な野球選手の例を紹介します。あるプロ野球チームのキャンプに同行した時に、メンタルの不調を訴える選手に対して、実際に安静時の自律神経の活動を測定してみました。その結果、交感神経優位な状態でバランスが悪く、これが影響しているのではないかと考えられました。胸に心拍センサーを張るタイプの機器を用いてさまざまな動作における自律神経の状態を測定してみると、この選手はバッターボックスに入った途端に、副交感神経の活動が上昇し、自律神経のバランスが瞬時に改善することが分かりました。このデータの結果を生かし、なるべく打席に入る練習メニューを増やすことでメンタルの不調が改善しました。さらにこの選手は、この年に多くの盗塁に成功し、バッティングも好調を維持して、目覚ましい活躍をみせることができました。

5.代謝UPストレッチ

スポーツ選手の例をみてきましたが、スポーツ選手に限らず、なるべく多くの皆さんに自律神経のバランスを整えることを意識して、よりよい生活を送られることを望んでいます。これまでみてきたカラダの不調を改善する、あるいは、新たに不調が生じることを予防するために、自律神経のバランスを整えることが非常に重要であることはご理解いただけたことでしょう。それでは、実際にどのような方法で自律神経のバランスを整えればよいのでしょうか。さまざまな方法がありますが、その具体的な方法の1つに「代謝UPストレッチ」があります。代謝UPストレッチとは、全身の血のめぐり血流を良くするためのストレッチ(身体のさまざまな機能の維持・強化を目的とした運動)です。代謝がアップすると血行が良くなり肩こりや腰痛、冷えなどの機能改善や運動時のパフォーマンス向上にもつながります。もちろんダイエット効果も高めてくれます。

図4:代謝UPストレッチとは

まとめ

●自律神経のバランスは血流への影響が大きく、パフォーマンスと直結する
●そのために、自分の自律神経バランスを頭に入れておくことが重要
●「代謝UPストレッチ」を日常生活に取り入れることで、自律神経バランスを整える

自律神経とパフォーマンスとの関係について、とくにスポーツ選手にみられる典型的な例を挙げてみてきました。スポーツ選手にとっては、筋肉に良質な酸素を送ることが良いパフォーマンスを発揮するためには重要であり、そのためには血流を良くすることが大事です。これは当然ながら、スポーツ選手だけの話ではなく、私たち一般人についても同様です。血流や血液を送る心臓のはたらきは自律神経によってコントロールされているので、血流の改善には自律神経のバランスを整えることが不可欠です。また、自律神経のバランスは人によって異なり、自分にとってどのようなバランス、例えば交感神経を活発にした方が良いのか、それともリラックスするために副交感神経を活発にしてバランスを調節した方が良いのか、自分の最適な自律神経のバランスを念頭に置くことが重要です。どのようにしたら、パフォーマンスを発揮できるのか、それぞれがベストとする自律神経のバランスを頭に入れてください。また、自律神経を整えて全身の血流を改善する、代謝UPストレッチをぜひ日常に取り入れて、自律神経のバランスを整えることを心がけてください。

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