②自律神経の日内変動と年齢による変化
1.自律神経バランスの日内変動
自律神経を構成する交感神経と副交感神経は、1日の中で変化し、また、年齢によってもその活動の状態は変化していきます。生理学的には、ほとんどの生物の身体機能には約24時間周期のリズムを持った変動があり、このリズムのことを概日リズム(サーカディアンリズム)といいます。通常、1日24時間での変動は、周囲の環境における日-夜の明暗のサイクルである光周期に同調するようになります(光同調性といいます)。 自律神経は1日の中での変化 (日内変動といいます)します。
朝起きたときには、カラダを活動的にしていくために、心拍数を高めたり血圧を上昇させたりする「交感神経優位」の状態となります。そして、午後になると徐々にカラダをリラックスさせる「副交感神経優位」の状態となっていきます。夜になると副交感神経は引き続き活発になる一方、交感神経の活動は徐々に抑制され、心拍数や血圧は低下傾向を示します。そして就寝中は「副交感神経優位」となり、心身ともにリラックスします。
この変化には、昼間に活動したカラダの疲れを回復させて、また、翌日の活動に備えるための休息の意義があります。自律神経のバランスの変化を考える場合、朝の起床時と夜の就寝前が非常に重要です。この2つの時間帯は自律神経の活動が大きく変化する時間であり、カラダの状態や自律神経の状態がどうなっているのかがきわめて重要です。
図1:自律神経と日内変動
2.朝の起床時における自律神経
朝は、副交感神経優位から交感神経優位にバランスが自然に変化する(切り替わる)大事な時間です。自律神経のバランスを良好に保つためには、夜間に活性化した副交感神経の活動もある程度、維持する必要があります。交感神経優位に向かう朝をどのように過ごしたらよいのでしょうか。
その1つは、朝日を浴びることです。24 時間のリズムを維持するという、概日リズムや光同調性の意義からも、まず、朝になったら日光を浴びることが大切です。そのことによって交感神経が活性化します。
2つめは、朝食前に適量の水分(コップ1杯の水など)を摂ることです。これにより、副交感神経の活動の急な低下を防ぐことができます。水分が不足してくるとカラダにはさまざまな不調が生じますが、血液もいわゆる“ドロドロ”の状態になり、血流も滞りがちとなって、自律神経のバランスも乱れてくるのです。
最後に、朝食を食べることです。正しく朝食を摂ることで、腸管のはたらきと同時に副交感神経もはたらくので、急激な副交感神経の低下は起こらず、スムーズに自律神経のバランスを保ちながら、交感神経が適度に優位な昼間の活動を行うことができます。
図2:自律神経と日内変動
3. 夜の就寝時における自律神経
就寝前は、夜間の睡眠に入るために交感神経優位の状態から副交感神経優位の状態へと切り替わり、両者のバランスが変化する大事な時間帯です。この切り替えがうまくいかないと睡眠の質は悪化します。そして昼間の疲れが取れず、いずれはカラダに不調をきたすことになります。ここで重要なのが“寝る前の過ごし方”です。ポイントの1つ目は、夜はあまり明るい光を見ない、浴びないようにすることです。パソコン、テレビ、スマホなど、画面の光が強いものを就寝前には見ない、扱わないようにすることが大事です。2つ目は、照明を間接照明などの柔らかい照明に切り替え、部屋をほの暗くすることです。これらによって副交感神経が活発となり、副交感神経優位な状態で良好な入眠が得られ、睡眠の質も良くなります。
図3:自律神経と日内変動
4. 年齢と自律神経の関係
加齢によっても、自律神経の活動とそのバランスは変化することが分かっています。よく、「30代になってガクッと体力が落ちた」 という声を聞きます。この背景にはさまざまな要因があると考えられますが、とくに自律神経が関係しており、主にその機能が加齢とともに低下していることが考えられます。
例えば、年齢が高じていくと心臓機能にも影響が出てきますが、“運動したとき上昇した心拍数が、元の状態に戻るまでの時間がかかるようになってくる”といったことが挙げられます。心拍数の上昇は交感神経の役割であり、心拍数の減少は副交感神経の役割ですから、上昇した心拍数の戻りが遅くなるということは、副交感神経の機能が低下していることと理解できます。つまり、加齢による自律神経のはたらきが低下していることを意味しているのです。
図4:自律神経と日内変動
5. 年齢に伴う自律神経の機能低下
実際のデータをみてみましょう。図5に示されるように、加齢に伴い交感神経と副交感神経の活動域が低下していく様子がわかります。それでは、どのくらいのスピードで自律神経機能は低下していくのでしょうか?自律神経の機能維持のために何も対処せずに放っておくと、10年で活動域は15%ずつ減少していくことが知られています。つまり、10年間で15%のスピードで、カラダの恒常性を維持する機能が低下し、免疫系の機能や内分泌系の機能が低下し、失われていくことになるのです。
図5:自律神経と日内変動
6. 自律神経の機能維持
それでは、どうすれば加齢に伴う自律神経機能の低下を防止し、維持することができるのでしょうか。まず挙げられるのが、定期的な運動の習慣を身につけることです。とくに有酸素運動(酸素を取り込みながら体中の糖・脂肪を燃焼させてエネルギーに変える運動、ウォーキングやジョギングなど)を習慣化することです。ポイントは、運動を“いつ行うのか”ということですが、“朝”ではなく“夜”行うことで、とくに夕食後の最低30分のウォーキングが理想の運動といえます。
図6:自律神経と日内変動
まとめ
●自律神経には日内変動がある
●朝起きた時は交感神経優位になり、夜寝る前は副交感神経優位になる
●加齢に伴って自律神経の機能は低下する
●自律神経の機能の低下を食い止めるには、定期的な運動が重要
●運動は朝ではなく夜、夕食後の30分のウォーキングが理想的
自律神経は1日の中でも変動しており、交感神経と副交感神経のバランスは変化します。朝の起床時は副交感神経優位から交感神経優位に変化し、夜就寝する前は交感神経優位から副交感神経優位の状態へ変化し切り替わる重要な時間帯です。また、加齢によって自律神経の機能は低下し、何もしないとそのまま低下し続けますが、有酸素運動の習慣化によってそれを食い止め、自律神経のバランスを良好に保つ生活が可能です。運動は朝ではなく夜行うことが理にかなっており、とくに夕食後の最低 30分のウォーキングが理想の運動といえるでしょう。